詩人の墓にて At A Poet's Grave(My songs shall rise、Francis Ledwidge)私訳

2023年6月4日日曜日

 詩人の墓にて(わたしの歌はよみがえる)


友なるパイプを置き
愛する花を散らされ眠るとき
わたしの心に兆したうたは
自然のなかにあらわれる


ここに心やさしき詩人が眠り
歌われなかったうたをわたしは聞く
吹く風に花々が揺れ
アリウムの花房が鳴るときに



詩の原文はこちら
作者であるアイルランド詩人フランシス・レドウィッジ(Francis Ledwidge)はこの詩に「At A Poet's Grave(詩人の墓にて)」とタイトルを付けています。
が、ボーカルグループAnunaの主催Michael McGlynnはこの歌にメロディーをつけたものを作曲、「My songs shall rise」と別のタイトルを付しています(彼らのアルバム「Songs of the Whispering Things」において、この曲のタイトル表記は「My songs shall rise(from "At a Poet's Grave")」となっています)。曲はyoutubeでも公開されています。

レドウィッジの政治的な立場をどう評価するかは意見が分かれる(批判的な意見も多い)ところですが、Michael McGlynnは彼の作品について「his work has been somewhat neglected until recent times.」としており、これまで(二次大戦以降)あまり評価されていなかった個性的なアイルランド詩人として、その作品を積極的に発掘したい思いがあると思われます。 

なお、アイルランドにおけるレドウィッジの評価について、wikipediaでは要出典情報ではありますが、以前は「農民詩人」および「兵士詩人」として学校カリキュラムに位置づけられていたものの、20世紀に入って数十年間は取り上げられなかった(faded)のが、最近また取り上げられるようになった、としています。


彼がメロディーをつけた曲のタイトル「My songs shall rise」は詩の第一パラグラフ3~4行目から引かれたものです。原文は以下の通り。


My songs shall rise in wilding things
Whose roots are in my heart.


動詞riseはのぼる、上昇するという意味ですが、神学用語では(キリストなど)死者が蘇るという意味合いがあり、ここではこちらのニュアンスを意識していると思われます。とはいえ「roots are in my heart」という表現から、上昇運動のイメージも皆無ではないでしょう。
(拙訳では「兆す」としていますが兆すは萌すとも書き、根を持つ植物が地上に芽生くという意味合いもあります)


なおAnunaの曲のタイトルが「My songs shall rise」であることを重視し、この詩をAnunaの曲として訳するならばこの第一パラグラフは


友なるパイプを置き
愛する花を散らされ眠るとき
わが心から自然のなかに
うたは蘇る


などとしてもいい気がします。

亡くなったのは詩人、poetですが彼が遺したものも、作者自身が亡くなった時にあらわれるだろうものもいずれも歌われるもの、songsである……つまり、poetとsongとがこの詩の中ではほぼイコールの概念として書かれています。

このあたり、詩の朗読や歌による物語りの文化があるアイルランドらしいなと思います。


ラスト2行は原文では以下の通り。

When winds are fluttering the flowers
And summer-bells are rung.

拙訳のアリウムは原文ではsummer bellsとなっています。
アリウムはあまり日本では馴染みがない花ですがネギ科の花で、ネット検索すると「Allium Bulgaricum (Summer Bells)」の写真が出ます。一本の茎に対し、下向きに咲く小さい花放射状に広がった形をしています。summer bellsという花の名に掛けて「rung」鳴らされているのは言うまでもありません。

なお冒頭一行目、When I leave down this pipe my friendの「pipe」は楽器でも煙草でもどちらでも解釈可能と思うため、そのまま「パイプ」としています。


初出: https://www.tumblr.com/rhymeandriddle-blog-blog/704861471290654720/an%C3%BAna-my-songs-shall-rise-my-songs-shall?source=share