炎と雪と謝肉祭(Fire And Snow And Carnevale / Winter, Fire And Snow)私訳

2023年6月26日月曜日

translation

炎と雪と謝肉祭(Fire And Snow And Carnevale)


冬、炎は美しい
音楽のように美しい
それは洞を照らす――
外では人々が家へ向かい
ゆっくりと道をのぼる――ラジオから流れる
ヴェルディの旋律
あらゆる冬を雲が吊るした
いちばん遠い丘に
雪の降りだす三時間前


日は暮れて窮屈になり
暗くますます暗くなる
そこに風の尾に乗ってお前が――
凱旋に髪を巻き上げた
背が高く十歳ほどの
幼い息子が帰宅する――
お前の黒い二本の剣と
黄金の柄のナイフで
家は謝肉祭に彩られる


私は怯えながら
雪の無音を聞く
お前が帰ったら――
焼きつけられた恐ろしい病の絵姿の
熱の中心を
空想の白い蠍が貫く――
冬、炎は美しく
音楽のように惜しみなく――お前が
炎と雪と謝肉祭のなか
この安全な家へつね戻りますよう



冬、炎と雪と(Winter, Fire And Snow)


冬、炎は美しい
その美しさは歌のよう
冬、雪は美しい
なべての長き冬


そして息子よ、幼いお前が
風の尾に乗り帰ってくる
冬、炎と雪と
安らかなこの家にお前がちゃんと戻るよう


日は暗く窮屈になり
暗くますます暗くなる
お前は謝肉祭へ行き
私は冬に怯える


けれど幼い息子よ、お前が
風の尾に乗り帰ってくる
冬、炎と雪と
安らかなこの家にお前がちゃんと戻るよう


冬、炎は美しい
その美しさは歌のよう
冬、雪は美しい
なべての長き冬
なべての長き冬



Macdara Woods (1942 – 2018)はアイルランドの詩人。生地はアイルランドのダブリンですが、ダブリンのほか、イタリアの居住経験もある人物です。夫婦ともに詩人で、息子は音楽家として活動しています(参考)。

彼の詩"Fire And Snow And Carnevale"(炎と雪と謝肉祭)の原文はこちら。なお、詩人本人による朗読もあります。(朗読は3:40から。後述の、作品の制作背景についても語っています)

この詩をBrendan Grahamが翻案、曲をつけたのが"Winter, Fire And Snow"(冬、炎と雪と)になります。原文はこちら。Brendan Grahamはケルティック・ウーマンのカバーで有名になった"You Raise Me Up"の作詞家でもあります。

"Winter, Fire And Snow"はアイリッシュダンスのショー"リバー・ダンス"で使用されており、Anuna、Cathal Synnottによるアレンジ版が発表されています。Anunaの演奏はこちら。youtubeではその他、ケルティック・ウーマンの元メンバーでもあるÓrla Fallonの演奏などがアップされています。Órla Fallonは「Winter, Fire And Snow」というタイトルのアルバムも出しています。


Macdara Woodsの作品タイトルにもあるcarnaval、謝肉祭はイタリア・ヴェネチアの大規模なイベントと仮面が有名ですが、カトリックの四旬節前に行われる一週間程度の節期を指します。四旬節は2月4日から3月10日のいずれかの日に始まるので、謝肉祭は1月末から3月頭までに行われます。
(謝肉祭→四旬節→復活祭(イースター)という流れになります)

2016年に書かれた詩人のエッセイ(作品自解。先に紹介した朗読動画の解説と一部内容が重複しています)によると、彼がイタリア中部のウンブリア州在住時代、息子が地元の謝肉祭で怪傑ゾロの仮装をしたことがあり、彼の詩はその頃のエピソードを踏まえた作品となっています。

第一パラグラフ、"ラジオから流れるヴェルディの旋律"は"the strains of phone-in Verdi on the radio"。 phone-inとは視聴者投稿番組のことです。
phone-in Verdi という表現は詩人のエッセイにも登場しており、特定の何かを示していると思われますが、不明です。ネットで調べると"Klassik Radio Verdi live"という、ヴェルディ専門のドイツのラジオ局があることがわかるので、もしかしたらこちらのラジオ局が流すヴェルディを聞いているのかもしれません。

一方、翻案された"Winter, Fire And Snow"(冬、炎と雪と)を見ると、謝肉祭に行って帰ってきた息子の猛々しい描写や主体の聞くラジオ番組などの要素は省かれ、より抽象的な、中世や童話の世界と言ってもいいような世界観になっていると思います。

"Fire And Snow And Carnevale"の最終パラグラフ、"お前が/炎と雪と謝肉祭のなか/この安全な家へつね戻りますよう"は原文では以下の通り。


may you
always come this safely home
in fire and snow and carnevale


一方"Winter, Fire And Snow"の類似の箇所は以下の通り。


May you always come this safely home
In winter, fire and snow


前者の場合、"in fire and snow and carnevale"がその前段に掛かっているのが明らかだと思うのですが、後者も同様か、判断に迷ったので少し変えています。


My neighbour remarks: In winter fire is beautiful. I respond, It lights the cave. Which is as basic as it can get — all human history is contained in those four words, and after that the poem flows on its own narrative terms.


この詩人の自解を見るに元の詩の冒頭、"In winter fire is beautiful"  "It lights the cave" が、元の詩においては大切なフレーズなのかなと思います。