オメラス/光

2022年8月5日金曜日

tanka

密造酒分けあうごとく冷暗のライブハウスの扉は重く


揮発してゆくものなべて美しく歌い手の見た遠い中空


身体より混ざりあうこと容易くてたましいよりも声はたましい


背負い続けた羽の名残の肉塊をしずかにおろし歌ははじまる


砂浜のように照らされステージはそのまま 代わりの人生はない


立ちながら楽器は眠りそののちはひとの領域となる終演 


のぼりだす冬の星座に目を伏せてオメラスを去りオメラスへ入る




(初出・『祭の跡に』武田ひか・編 2022年5月頒布開始)

 なお、歌の構成は初出から一部入れ替えている。