五月、六月、そして八月。
七月について、レドウィッジは詩を書かなかった。
nationとあなたが呼んだその国は動員法すら持たないままに
IOC難民選手団乗せて小船激しく波に揺れたり
長い冬、であったはずが 黙禱は行われずに進む式典
薔薇、小鳥、夭逝、メダル 眩ませるこの世の影のどれも美し
象徴の象徴として光ってた鳩の形の(平和のかたち?)
金メダルの報せ続々湧きあがるその水源に――ベイルート爆撃
それぞれに背負へる国のあるらしく選手ら戦勝のごと旗振る
If I must die / let it bring hope / let it be a tale…… (Refaat Alareer)
物語になるのはいつという問いも問いつくされて永い眠りよ
ダイ・インのひとの頬焼くアスファルト傘は炎のやうには増えない
The Tomb of the Unknown Warriorは小鳥の巣 夏になっても土冷えきって
傘の下執行される慰霊祭であったか、と気付くこの傘の下
夭逝の詩人や兵士のものがたり貪れる暗き口腔はある
*
愛されるも忘れられるもいずれみな露の冠 詩はただの文字
銀の駿馬はパリを駆け抜けどの死者も退けられてオリンピック始まる
初出:
2024.12.1 文学フリマ東京39 配布ペーパー
「フランシス・レドウィッジ対訳詩集」頒布開始に寄せて